川崎港海底トンネル
神奈川県川崎市川崎区にある人工の島、東扇島へと繋ぐトンネル。
国道132号線、塩浜交差点を抜け千鳥町を走る。
川崎港海底トンネルへと差し掛かる手前。
左脇に道が長く伸びているだろう。
そこをまっすぐいくんだ。
葉色が余り良くない木や草がいっぱい茂った公園があると思う。
緑がいっぱいだけど空気は悪い。
そこには人なつっこい猫がいっぱいいる。
けれども俺の目的はそれではないんだ。
水色と白のデカイ建物のふもとに
薄汚れたトタン屋根の小屋がある。
中には地下へと続く階段があるんだ。
階段は緩やかな傾斜で地面は水に濡れてじっとりしている。
下へ降りるほど空気もじっとりと湿り気を増してくるが分かるだろう。
開きっぱなしの自動ドアをくぐる。
ゴォーーーという音の存在がでかくなる。
地下には1Kmの細長い道が続いてる。天井の高さは2m。
前を見つめても出口は見えない。
四方の角が視界の中心へと伸びて綺麗な×印を描いてる。
右斜め上のスピーカが俺に言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
ノイズ混じりの割れた女の声。
足を前に動かす。
一歩ずつ前に進む。
体は前に進む。
しかし景色は一向に変化が無い。
俺は放置されていた自転車に乗りたくなった。
ノイズ混じりの割れた女の声が言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
俺は歩いてる。
空気が美味しいという言葉があるが、
空気のオイシイ味って分かるのかな。
もし空気の不味い味が分かるかって聞かれたら
俺は何の迷いも無く答えられるぜ。
ここの空気はクソマズい。
ノイズ混じりの割れた女の声が言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
汗をかいた。
とてもイヤな汗だ。
今日は曇りだし気温も下がっているのに
背中にじわりと汗が出る。
後ろを向いたら大男が立っていて
鈍器で思いっきり頭をヤラれそうだ。
等間隔にある避難扉の前に積んである土嚢が
浮浪者の体の一部に見える。
ノイズ混じりの割れた女の声が言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
音楽を聞きたいと思った。
でもカバンからMP3を出して聞く気にはなれなかった。
それはこの重い空気を味わっていたいのと
閉鎖的な空間に自分一人しかいないという事に不安を覚え、
五感の1つも欠きたくないという思いからだ。
ノイズ混じりの割れた女の声が言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
しかし退屈だ。
鞄の中にある文庫本を取り出して昨日の続きから開く。
ちょうど主人公が睡眠薬をキメてラリってる。
1つ1つの単語や言葉がバラバラになったジグソーパズルの様に
何ページにも渡って続いている。
正直読み飛ばしてもいいかも知れないが
1行1行、文章から目が逸らせない。
逸らしたら負けだと思った。
ノイズ混じりの割れた女の声が言う。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
まだラリッたページは終わらない。
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
「ここは歩行者専用通路です。自伝車は降りて通行してください。」
ノイズ混じりの割れた女の声。
俺は気が狂いそうになった。