sakeme
「破れたソファーの裂け目から覗くスポンジを跡形も無くむしりとる様なキチガイの座った席で夕食をとるのが苦しいです。」

なにを言ってやがる、たかが300円ちょっとの食事で自分が座る席に文句を言うでない。そんな事気にしてるようじゃあ明日はお前の番だぞ。僕は言ってやった。

「この間、Twitterで、ですね、あ、僕Twitterやってます。フォローしてください。あそれで、ですね、こんなツイート見たんです。
1時間かと思ったら実際には5時間経っていたり、好きな事に没頭していると時間はあっという間に過ぎる、けれどあなたはその1時間しか歳をとっていない事になる。若い気持ちは失われない。若さの秘訣は好きな事をやることだ』みたいな。
あんま自分頭悪いのでちゃんと覚えてないんですが、言いたいことはまあ大体合ってると思います。」

僕は頬杖をつきながらかき揚げに醤油を垂らして彼の話を聞く。醤油の入ったケースが汚れていたらしく手に醤油がべっとり付く。紙ナプキンで手を拭く、調味料台の上に戻す際にもう一度手を汚す、そうか、戻した後に手を拭くべきだった。何をやっているんだろう。本当に僕は何をやっているんだろう。目の前のこいつは何を思っているんだろう。ぼくは破れたソファーの裂け目から覗くスポンジを跡形も無くむしりとる様なキチガイと同じ様な眼差しで見られるんだろうか。そうだとしたら耐えれない。どうしよう。

「でもそれって、自分だけいつまでも若いってわけじゃないですか。みんな歳を取っていくわけですよ。普通に。大人になっていくわけですね。社会人としてのステータスとか世間体として結婚とか老後とか将来の生活とか考えていくわけですよ。僕もう20代後半過ぎました。まわりはもう大人になっていきますよ。30代に向かって真剣に自分の人生設計に向き合ってますよ。僕まだ好きな事やってます。いつの間にかみんな変わったなって思います。孤独です。寂しいです。若さって本当に残酷だと思います。」

ばかやろう!お前の人生だ。僕は胸の中が熱くなり自分の注文した中かけ(¥189)をそいつの頭に浴びせる。背中に入った熱いうどんをなんとか取り除こうと慌てふためくそいつに間髪いれず手の平にかき揚げを乗せパイ投げの要領で顔面になすりつける。店中めちゃくちゃ大騒ぎだった。野方警察署からパトカーが早稲田通りの交差点を曲がって来る前に2人で逃げた。そして沢山のごめんねをそいつに言ったあとに近所の公園の多目的トイレで体を洗って砂場にゆっくり埋めた。

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翌日の夕方。僕は昨日と同じ場所で同じ様に食事を取る。でも今日は破れたソファーの裂け目から覗くスポンジを跡形も無くむしりとる様なキチガイの座った席じゃない。隣の席だ。僕はキチガイじゃない。

かけ中を食べた。お茶を飲んで一息。ふと自分の腰元に目をやる。
ソファーが少し破れてる。僕はその裂け目の中を人差し指でゆっくりほじくり始めた。