真夜中に家に着くまでの長い長い急な坂道を登っている。
この辺りに引っ越して大分月日は経つがこの坂だけはなかなか慣れない自分がいる。
アスファルトは泥の様に水分を含みじっとりと濡れて靴底に絡みつく。
右手には鬱蒼と生い茂る竹林があって、湿った空気の重さを少しも損なう事なく首回りに運んでくる。
俺は顔を上げ視線を前方に移す。
あと家までどれくらいかなとしつこい位に確認するんだ。
でもその日はいつもの見慣れた頂上ではなく違う物が映った。
男が坂を下ってくる。
俺が懸命に登るこの坂を。
男はジグザグに曲がりながら坂を下ってくる。
顔が暗くて分からない。
でもアイツはイギリス国旗の手提げバッグを持ってやがる。
それに比べて俺はローソン印のコンビニ袋しか持ってないじゃないか。
ばかたれめ。
駄目だアイツには敵わない。
ああどうすべきだ。
何故お月様が沈めばお日様は登っているという事、
お日様が沈めばお月様は登っているという事に
私は気付かなかったのでしょうか。
アイツがどんどん近づいてくる。
俺の足も止まらない。
距離が狭くなってく。
俺とアイツがぶつかるまであと僅か。
英国国旗が俺を睨んでる。
ローソンの袋は体をくちゃくちゃにして怯えてる。
俺とアイツはぶつかる。
必ず。



ドン!