「いいね、いいね、これ~」
「こんな気分は久し振りだねー」
「次はどこにする??」
「あれ。」
僕は七階建てのビルを指した。
土色のビル。
室外機が虫の様にへばりついてる。
その後ろは青い空。
雲1つない空。
本日は晴天。
空気は肌寒いけど、
日射しがとてもあたたかい。
ひょっとしたら今が春だと
間違えてしまうかもしれない。
別に平気だけどね。
「こんばんは」
と三角ハットのおじさん。
拡張された道路の
真新しい部分に立っている。
靴は油でペッタペタ。
「おじさん、今は昼だよ。」
「おじさんはね、
多分気付いてないだろうけどね、
いや、たぶん、
本当さ?今はね昼なんだよ。」
僕らの背中、
遠く遠く、
後ろでは女の叫び声。
この街は少しだけおかしい。
「いこ。」
友達は真新しいブーツで
僕が見つめる方向へ走っていた。
「行っちゃったよ、友達」
三角ハットのおじさんは
泥になってそう言う。
その時僕は遠くを見つめていた。
もしかしたら
友達は僕の見つめる
方向――。つまり
遠い場所へ行ってしまうのかもしれない。
僕の遠く遠く後ろでは
女の叫び声。
そして僕の遠い遠い先は
友達が走っていく。
「行かないのかい?」
おじさんは水になっていた。
僕は考えている。
たとえば60円払って
100分の1の確率でその幸せが手に入ったとすれば。
僕は100分の1で幸せに当たったという事になる
でも残りの99は不幸せかって言われればそうでもない。
1はスクリーンの中の映画だ。
フィルムの外から出る事は決して出来ない。
99と1は違う。
当たりの棒に出逢ったら、
99に引き換えをするため
走るだろう。
僕も最後はおじさんみたいに
水になる。
遠く遠く後ろで
叫んでた女の声は枯れた。
おじさんの言うことは
本当だったみたい。
今は夜だ。
僕は嘘をついていた。
友達は―。
夜は何をする?
眠る?
それも正解だ。
眠れない?
寝なきゃいいだろ?
お好きにどーぞ!