僕はきっと、
君の知ってる近所のスーパーのお惣菜に
半額シールが貼られるタイミングで帰路につく。

ぼくは15階建ての集合団地に住む。
エレベータは無い。せまい階段を、
コンクリートむき出しの階段を、
傾斜の高い階段を2飛ばしで登っていく。
足腰が鍛えられると期待するしかない。

この15階建ての集合団地に住む人々と僕は運命共同体である。
脳細胞の様に繋がっていて光を出したり受け取ったりする。
ついでに回覧板も回す。
赤いボタンと黄色いボタンのスイッチも。
(それは複数の人間が同時に押さないと作動しないように細工されている。)

302号室のドア横の換気扇から
その昔僕がファミリーマートのバイトで
スパイシーチキンを揚げていた時に嗅いでいた様な
油っこくてしつこい匂いが
白い油蒸気と共に漂ってくる。

かわいそうに、
玄関に飾ってある
多肉植物達もその油の被害者だ。
黒いヘドロのようなものが
こびりついて息苦しそう。
おれも窒息しそうだと。
体長5mmくらいのハエ取りグモも踊り場の隅っこで
くりっとした目で僕にしゃべり掛けてくる。

外の景色に目を向けると、
髪の毛が半分以上ボロボロに抜けた
女の人の生首が口から
(青みがかかった)綺麗なヨダレを
垂らしながら目を切れかけた電球の様に
照らして口をパクパクしてる。

この子がいると外が明るくなる。
パッという感じじゃなくて日が傾きかけたくらいの明るさ。
夕日のイメージかなー。オレンジ色の日差し。
だから、僕はこの302号室の扉を開けなくてはいけない。
中にどんな人がいるかは知らない。
だけど、みんな中に入れって言う。入らざるおえない。

MIWAロックのドアノブを回し向こう側に入る。
僕はこういう時、決まって靴を脱がない。
彩度が低くてとても薄暗い部屋。
手垢のこびりついた木の柱に手をかけて視線を先へと向ける。
彼は台所のシンクに背を向けて背中をくの字に曲げ、
業務用スーパーで買ってきた大量のフライドポテトを食べていた。
髪の毛や爪は抜け落ちだのだろう。大事にジップロックで保管されている。
彼は腸詰された肉の様な体をしていた。
大量の塩とケチャップを交互に付けてひたすら塩を舐め続けている。
一言、醜いと形容して欲しいのか。
ギョロッとしたカメレオンの様な目が僕に訴えかけている。
「30バンですかー!30バンですかー!」
クチャクチャクチャクチャクッチャクチャ。

さてこまったぞ。
僕はどうすれば良いか分からない。

明日も仕事だし。